【DREノベルス11月刊】『人質姫が、消息を絶った。』の著者・鯵御膳先生の2か月連続刊行を記念した、スペシャルSSを公開!
- 2023.11.08 DREノベルス
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DREノベルス11月刊『人質姫が、消息を絶った。 ~黒狼の騎士は隣国の虐げられた姫を全力で愛します~』の著者・鯵御膳先生が、本作に続き、12月にSQEXノベル から『肉と酒を好む英雄は、娶らされた姫に触れられない。』を発売されます。
2か月連続での刊行を記念し、「連続刊行記念スペシャルSS(人質姫side)」を公開いたしました!
それぞれの作品のキャラクターが登場する、ここでしか読めないクロスオーバーSSとなっております。
12月上旬にはSQEXノベル公式サイトでこのSSの続きが読める「連続刊行記念スペシャルコラボSS(肉と酒side)」が公開されますのでそちらもお楽しみに!
▼書誌情報
『人質姫が、消息を絶った。 ~黒狼の騎士は隣国の虐げられた姫を全力で愛します~』(DREノベルス)
著/鯵御膳
イラスト/中條由良
『肉と酒を好む英雄は、娶らされた姫に触れられない。』(SQEXノベル)
著/鯵御膳
イラスト/坂本あきら
- 連続刊行記念スペシャルSS(人質姫side)
「なるほど、こいつは見事なもんだ」
俺は、目の前で繰り広げられる見事な包丁さばきに感心しながらそう呟いた。
とある屋敷の中庭、バーベキューの準備がされたそこにに設置された大きな調理台の前で包丁を振るうのは、大柄な男性。
何しろかなり大柄な部類である俺よりも背が高く、筋肉に至っては二回りほど向こうの方が厚い。悔しいが。
これで年齢も同じくらい、身分も同じ子爵だっていうんだからなぁ……。ついでに、どうでもいい話だが黒髪黒目なのも同じだったりする。
まあ、子爵と言っても俺の国とこの国で扱いが同じかはわからないけども。
「そうですね、あんな大きな包丁を軽々と一定のリズムで動かし続けるなんて」
俺の隣に座るニアもやはり感心したような口調で言う。
更にその隣、ニアを挟んで俺と反対側に座っている女性はそんな俺達の言葉を聞いて、ニコニコととてもご機嫌そうだ。
銀色の髪に透けるほどに白い肌をした儚げな印象のある彼女はイレーネ・トルナーダ。
今目の前で包丁を振るってくれているガストン・トルナーダ子爵の夫人である。
……子爵夫人にしては随分と洗練された所作と雰囲気なんだが……あれか、ニアと同類だったりするのかな、もしかして。聞いたら面倒なことになりかねんから、聞かないけども。
「動かし続ける筋力も凄いんですが、動かし方も大したものですよ。あの硬そうな内臓肉やスジ肉を、繊維を潰さずにきっちり切り裂いている。あれを延々続けられるだなんて、並大抵じゃない」
「まあ、そこまでおわかりになるだなんて。ご慧眼です、マクガイン様」
「いやぁ、そんなそんな」
たおやかな微笑みと共にトルナーダ夫人から褒められて思わず緩みそうになった顔を、キリッと引き締める。
こんな美人さんに褒められて鼻の下を伸ばした日には、ニアから睨まれちまう。……いや、嫉妬してくれるかどうかもわからないが、嫉妬してくれたらいいなぁ。いやだめだ。
ちらりと横目でニアの顔色を窺うも、先程までと変わらずニコニコしている。うん、今くらいのやりとりなら大丈夫だな。
なんてことを話している内に、肉を叩き終わったのか、出来上がった挽肉が大きなボールに取り分けられていく。
「後はあの挽肉を料理人達がこねて形を整え、焼き上げていくのです」
「なるほど、それがこの街名物の『挽肉ステーキ』……いえ、元は辺境伯軍の名物なのでしたね」
その名物を、辺境伯の息子であるトルナーダ子爵が手ずから作ってくれてるんだから、大した歓待っぷりである。
なんで俺とニアがそんな歓待を受けてるかを説明すると長くなるんだが……簡単に纏めると、二人で散歩をしていたらいきなり謎の霧に包まれて、気がついたらこの街にいたというかなり謎な話になってしまうんだよな。
困った俺達に丁寧な対応をしてくれたのがこの街の領主であるトルナーダ子爵夫妻で、夫人いわく『神子の戯れ』と呼ばれる現象によって俺達がここに運ばれたんじゃないかということだった。
ちなみに、ニアによれば俺達の地域でも『妖精の悪戯』と呼ばれる現象で、こうして見知らぬ土地にいきなり運ばれることがあるのだとか。
で、戻るための手段として言い伝えられているのが、こうして酒宴で楽しそうに盛り上がって神子様を楽しませること、なんだそうな。
そういうわけで、子爵が自分で料理の下拵えをして場を盛り上げてくれている、と。……いや、あの人の場合多分単純に人をもてなすのが好きってのもありそうだが。
「お、楽しそうだな、よかった!」
ほら、こんな感じだ。丁度俺がそんなことを考えていたところにトルナーダ子爵が、洗った後の手を拭きながら裏の全くない笑顔でやってくる。
こんな顔されたら、無条件で信頼しちまうよなぁ。どこぞの殿下にも見習って欲しいもんだ。
「ええ、お陰様で。なんとも理に適った料理だなと感心しておりました」
と返したんだが、これが社交辞令ってわけでもなく。さっき子爵の侍従であるファビアンから教えてもらったんだが、その由来は同じ軍人である俺に大分刺さった。
そんな料理で歓待してくれようっていうんだから、こっちもただもてなしてもらうだけじゃ申し訳ないよなぁ。
「……もし子爵がお許しくださるなら、私から軍隊式の料理を振る舞わせていただいてもよろしいですか?」
俺がなんとなしに言えば、子爵は一瞬だけ驚いた顔になり。
「それは是非食べてみたいな!」
ニッカリとした笑顔になりながら、快諾したのだった。