『オルクセン王国史』樽見京一郎が読み解く『汝、暗君を愛せよ』



本条謙太郎氏が手がける政治戦記『汝、暗君を愛せよ』の発売を記念して、『オルクセン王国史』の著者 樽見京一郎先生の寄稿文を公開!

WEB小説時代から本作に注目していたという先生が語る作品の魅力をご紹介いたします。


『オルクセン王国史』樽見京一郎氏が綴る『汝、暗君を愛せよ』の魅力

 ――暗闘、崩壊、派閥、破綻、孤独、葛藤。

 「政治」とは、掴めたと思った瞬間、指の間から砂のように零れ落ちていく集塊。そんな世界に放り込まれた一人の男の内省を鋭く描く、傑作巨編。

 「暗君」とは何か。対して「名君」とは何か。両者を分け隔てるものは何なのか。

 歴史の教科書を紐解けば、区別のつかない君主もたくさんいます。ときに評価が一八〇度変わってしまうような例も珍しくありません。

 現代で造園業を経営していた主人公が転生したのは、そんな歴史の紡ぎ出す狭間。架空の世界ですから一種のファンタジーということになりましょうが、この世界にはドラゴンやエルフやオークといった「定番」の生き物たちも、何でも解決できてしまうような都合のいい「魔法」も存在しません。どこまでもリアルです。

 彼が統治することになったサンテネリという王国は、財政真っ赤っ赤。他にも内憂外患、課題、問題、難題山積状態。

 それでも出来ることは何もない。

 頼りになるのは己の才覚のみということになりますが、前世で人生が上手くいかなかった主人公自身が諦めきっているようにさえ見えます。

 しかし精緻かつ読みやすい文章の要所要所からは、彼の周囲への人間観察眼が非常に鋭いことが垣間見えることでしょう。苦い人生経験も、確実に引き継がれています。自らを「暗君」と自嘲する彼に潜んでいるのは、人間としての芯の強さでもあります。初めてこの物語に接したとき、「これは内省の物語」だと感じた所以です。

 そんな新たな人生で、せめて癒しを求めるなら、食事や異性といきたいところですが――

 君主たる彼は、食事ひとつさえ暗黙のルールに縛られ、身近な女性たちは美しくも「本音と建前」の世界に住んでいます。なんとままならないことか。

 少なくとも本人はそのように考えている。ときに猜疑心が強すぎるのではないか、自己評価が低すぎるのではないかと思えるような、そんな目線で周囲を見ています。

 言質や隙を与えれば利用される。もし国が破綻すれば、連帯責任の極致で「吊るされる」未来が待っていると、彼は信じている。

 この、鉄を口に含んだが如き苦々しさ。人生とは、重き荷を背負うて遠き道を行くが如し。上手くいくことよりも、そうではない結果のほうが多いかもしれない。そこが「リアル」なのです。

 しかし、決して敬遠なさらないで欲しい。

 精緻にして軽妙、繊細に紡がれる文章は、読む手を止まらなくします。

 一頁一頁、虜となり、主人公が「目指すもの」のかたちが見えてくるはずです。

 その先に待っているものは何か。

 そして周囲は「暗君」に何を見出すのか。

 皆さま、何卒ご一緒にその展開と行方、顛末を追おうではありませんか。


《2025年8月6日(水)発売予定》
『汝、暗君を愛せよ』
著/本条謙太郎 イラスト/toi8


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